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2000年12月19日

ラボラトリ SHARE ― 1万回の夜 ―

今では恥かしくてとても書けない文章続きですが、当時の自分としては最高の出来栄えだったんだと思います。
恥かしくもありますが、何処となく捨てがたい世界観で、なかなか嫌いになれないといいますか。
なので、時計と合わせてブログの記事として残す事にしました。
小説サイト「アエーマ」初投稿作品でもあり、黎明期のアエーマを知る自分の、一種の証でもあります。
当時一緒に文章を書き殴っていた友人とプロットが被った作品でもあり、それを機に互いの世界観や設定等を語り合ったのも、今となってはいい思い出です。
(記 2007年10月)


おじさん達は世界中の人気者。

毎日毎日、同じ事の繰り返し。

だけど大切なお仕事。

とても楽しいお仕事。

そして寂しいお仕事……。

 

「しまったっ!」

おじさんはこのお仕事を始めてまだ3日目です。まだまだ先輩のおじいさん達にはかなわないみたいです。

結局その日も、寝坊してしまいました。真っ白な髪もぐちゃぐちゃになっていました。本当はまだまだ若いんだろうけど、この髪のおかげですこしだけ、おじいさんみたいに見える、不思議なおじさんです。

御飯を食べる時間はたぶん無さそうです。おじさんは慌ててベッドから飛び起きて、パジャマのままでお外に飛び出しました。

もうすっかりお外は乾ききっていました。お日様がキラキラ輝いています。夜はたくさん降り積もった雪のおかげで家から出ることが出来ないけれど。

今日は全部が解けきってくれたようです。おじさんは笑顔で、その地面とお日様を見つめました。今日の仕事は寒い分、とてもキレイでしょう。

でも、それもつかの間。おじさんははっと思い出して、家の隣りに建っている納屋に向かいました。古びたドアを開けると薄暗い納屋の中から、二頭の小さなトナカイと一緒に、古びたそりが姿を現しました。おじさんはそのそりの前に近づいて、傷んでないかどうかを調べます。早速見つかりました。一回のお仕事でも、けっこう傷んでしまうものです。

「……あー、お下がりだからなあ……やっぱり買うべきだなあ」

手すりの部分がぼろぼろになっています。他の場所は大丈夫みたいだけど、さすがに買い換えなくちゃダメみたい。それも今日のお仕事次第です。保険にも入っているので、仕事中にそりが壊れた場合でも何とかなるでしょう。でもそういう場合、問題は次の日からです。

「金持ちの御曹司連中が羨ましいなあ……俺もジェット機で配りたいよ、まったく」

手すりをぽんぽんと叩きながら、おじさんはグチを言いました。でも免許を取るお金も、ジェット機を買うお金だってありません。渋い顔でおじさんは現実を見つめていました。

おじさんは気を取り直してゆっくりと立ちあがりました。そして、その隣りに居るトナカイ達のところへ向かいます。小さい柵の中に、まだ角も体も小さいトナカイが二頭。まんまるなお目々がとてもキレイでした。トナカイ達は、柵の隙間から顔を出して、おじさんにすり寄りながら喜びました。トナカイ達の頭を軽く撫でながら、おじさんも一緒に喜んでいました。

でも、あまりゆっくりする時間はありません。

「斎藤さーん! ……あれ、居ないのかな?」

「ああ、はいはーい!」

郵便局の人の声が聞こえました。おじさんは納屋を飛び出します。家の前にその郵便局の人が立っていました。その後ろには赤い郵便車と、今日の荷物。色とりどりの包装紙で包まれた小包が山積みになり、三つほど小高い山を築き上げています。

「……今日は少し多いですね……うわー、袋に入るかな」

「はい、ココに印鑑」

郵便屋さんも大変だったのでしょう。たくさんの荷物を車から降ろした後なので、疲れた顔をしていました。

おじさんはそのまま家の中へ。しばらくしてハンコを持って現れました。そのままそれを郵便屋さんに手渡します。

「はい、確かに」

郵便屋さんはハンコをおじさんに返しました。おじさんはそれをパジャマのポケットにしまいこみました。

「あなたも大変ですねえ。後はどちらへ?」

おじさんは郵便屋さんにそう話しかけました。郵便屋さんは帽子を少し直しながら、その言葉に答えました。少し渋い顔になりながら、です。

「お隣りの徳島さんが大忙しらしいですよ。棺桶セットを20組も注文なさってますから」

「あ~、また戦争ですか、まったく……死神業も辛い仕事ではありますねェ」

おじさんも、悲しい顔を隠しきれませんでした。あごに手を当てて、天を仰ぎます。

しばらく二人とも静かでした。そして郵便屋さんが先に口を開きます。

「そういや、お宅まだお髭が」

おじさんのお顔にも、うっすらと白いお髭が生えてきています。でも、まだまだ少ないです。遠くから見ても、まだ解らないでしょう。

おじさんは、あごを撫でながら答えました。

「まあ最近、電波技師から転職したばかりですからね。最近は我々の力が無くても、すぐに互いに通じ合えますから。逆に今の仕事は人員が不足してますし。労働時間帯も限られてるから結構楽な仕事ですよ」

「……なるほど」

「いや、なに……と失礼。急がないと」

時間がありません。おじさんは郵便屋さんに一礼して、荷物を中に運び入れ始めました。郵便屋さんはそのままお隣の徳島さんのところへ。

おじさんは一旦中に入りましたが、ちょっと足の踏み場が少ない事に気がつきました。暖炉の前があいてるけれど、大切な荷物が焦げでもしたら大変です。仕方が無いので、玄関で荷物を詰めることにしました。

「……安物の袋っていうのもダメだな。この数じゃ容量ギリギリだ」

なにかとグチの多いおじさんです。

早速真っ白で大きな袋をタンスから取り出し、玄関の前で広げます。そして山積みになった小包を一旦開けて、中にある品物を一つ一つ確認しながら袋に入れていきます。

「……あらあら、これじゃあ電波技師がまた一人失業しちゃうな」

中には、かわいいデザインの携帯電話もありました。おじさんは渋い顔をしながら、昔の仕事仲間を想いつつ、書類の名前と照らし合わせて袋に入れました。

大人ぐらいの大きさのぬいぐるみや、プラモデルや、中には手編みのセーターなど。たくさんの人達が、それぞれに願いや想いを詰め込んだ品物が小包から出てきました。書類をチェックしながらおじさんはにこやかに、時には沈んだ顔で入れていきます。

全部を入れ終えたとき、家の中からボーンという時計の音が響きました。

「ヤバいっ!」

お仕事の時間が刻一刻と迫ってきています。慌てながら仕事の準備をしていても、気がつけばのんびりやっていたりするんです。

おじさんは早速荷物を詰めた大袋を背負いながら、納屋に飛び込みました。そしてそりの後部に荷物を下ろしました。

おじさんはまず、一旦家の中に入って身だしなみを整えることにしました。顔を洗って、乱れた髪をドライヤーと櫛で整えます。そして洋服ダンスに掛かっている真新しい制服を着込みました。鏡を見ると、白いぼわぼわが付いた、真っ赤で暖かそうな服を着込んだおじさんがいました。でも長靴と手袋と帽子……それにお髭が無かったので、少しだけヘンな感じになりました。

お髭が無いから付け髭をしなければなりません。早速おじさんは、お手製の付け髭を顎と口元にくっつけようとしました。でもお髭が少しだけ生えているから、なかなかくっつきません。

「くそ~……ヒゲの植毛サービスとかやってないかなあ」

グチりながらも、何とかくっつける事に成功しました。落ちないかどうかを、鏡を見ながら確認しようと顔を動かします。おじさんは、上、下、右、左と順々に首を動かして、そしてブルブルブルと左右に激しく振りました。改めて鏡を見ても、なんともありません。しっかりお髭はくっついていました。

「よし!」

少し大きな声をおじさんは上げました。そのままゲタ箱の上においてあった、制服と同じ柄のとんがり帽子を被ります。でも途中で「へにゃ」って折れ曲がってしまいます。先っぽについてる白い雪みたいなポンポンが揺れました。

準備は整いました。そのままおじさんは暖炉の火を消して、家を出ます。もちろんカギも掛けました。泥棒も多いし、なにかと気は抜けません。

おじさんは、そのまま納屋へ向かい、相棒のトナカイ二頭を柵から出しました。二頭とも、お日様の光がとても嬉しいみたいです。

トナカイを早速そりに繋ぎました。そして二頭にそりをひかせて小屋からそれを出そうとしました。雪が完全に無くなってしまった日というのは、仕事はとてもやりがいがあります。しかし、この場でそりをひくにはとても不便です。トナカイ達も辛そうです。おじさんはそんな二頭を手伝おうと、後ろからそりを押しました。

体力の要る仕事です。実際仕事に移るよりも、この準備のほうで疲れるというのが普通でした。先輩のおじいさん達の中には、ウォークリフトを使う人もいるそうですが、中にはこのようにして運ぶ人だっているそうです。もちろんジェット機なんかで配るお金持ちもいますけど……それは置いといて。そんな先輩のおじいさん達に負けてはいられません。おじさんは一生懸命そりを押しました。トナカイ達も一生懸命そりを引きました。

ようやくそりを玄関前に持ってくることが出来ました。そしておじさんは、これを一番にやるべきだとそのとき気がつきました。服を着替えるのは後からでも出来たのです。まだまだ新人だから、要領が悪くてなかなかスムーズには進みません。

あとは、組合が迎えに来るのを待つだけです。そりを買い換えたら、組合に預けておこう、早速、今日申請しよう、とおじさんは思いました。

それにしても。なんだか何かが足りないような気がします。

「……あ!」

そうです。手袋と、トナカイ達のベルがありません。おじさんは慌てて家に入ろうとしましたが、カギが掛かっていて入れません。制服のポケットを探しますが、何処にも入っていませんでした。

「くわ~っ! 何処に行ったカギカギ!」

おじさんは慌てて納屋に戻ります。薄暗い中でカギを探すのは大変なことです。手探りで納屋の中を探しますが、どうしても見つかりません。……あ。

「あった!」

トナカイ達の柵の中に転がり込んでいました。柵の隙間から手を伸ばしてカギを取ります。そして小走りになりながらおじさんは家のカギを空けて中に入りました。まだ暖炉の温かさが残っています。

手袋はテレビの上にありました。それを取り、次にベルを探します。こちらは書斎の机の上に置いてありました。おじさんは少し、がさつ過ぎます。ちょっとだけおじさんは自分を反省しました。

そのまま外に出てカギを掛けました。これでもう忘れ物は無いはずです。

早速組合の車がやってきました。ワゴン車と、そりとトナカイ運搬用のトラックが目の前の道に止まります。そしてワゴン車の助手席が開いて、中から一人のおじいさんが出てきました。

「どうも、おはようございます。斎藤さん」

「おはようございます。皆本さん」

おじさんは、そのおじいさんにお辞儀をしました。大先輩の皆本さんです。もう200日以上仕事を続けるベテランです。一日一日は短いけれど、仕事に入ればとても長い……。おじさんは楽だっていいますけど、実際はとても大変です。そんな仕事を皆本さんは、200日も続けているのです。お髭も真っ白で、まるで雪みたいでした。皆本さんの、シワだらけのお顔はとてもやさしい雰囲気を醸し出していました。

おじさんは早速ワゴン車に乗り込もうとしました。でも。

「斎藤さん、どうしたんですか? 制服汚れてますよ?」

皆本さんに言われて、おじさんははっとなりました。さっき納屋でカギを探したとき、その地面にはいつくばっていましたから。

「あららっ! しまった……」

泥だけではなく、納屋に敷き詰められていたワラもくっついています。軽くはたいても取れません。おじさんは手袋を一旦外して、指で一つ一つワラを取っていきました。皆本さんも一緒になって、ワラをとる作業が続きます。

「どうもすいません。お手数をおかけしました」

ひやひやとした顔で、おじさんは皆本さんに謝りました。でも、皆本さんは笑顔でそれに答えました。それでも、大切なことだからビシっとおじさんに告げました。

「いえいえ、でもワシらが汚れていたら、子供達のお部屋も汚れますからな。以後気をつけなさいよ」

まったくその通りです。おじさんは心から反省しました。

二人がワラを取る間に、そりとトナカイはトラックに積めらました。そのままおじさんは皆本さんと一緒にワゴン車に乗り込みました。

さあ、出発進行です。

ワゴン車が動き出しました。中には運転手の他に、助手席に皆本さん。

そして隣りには、これまたベテランな橘さん。

「おはようございます斎藤さん」

そしてその隣りに、またまたベテランな平石さん。言葉が訛っていて聞き取りづらいのがちょっと……。でもほんわかとした人で、おじさんにとっては兄貴分です。

「朝からえらいなんか、忙しかったごたっですな」

そして。見なれない人が一人、後部座席に座っています。

「おや? 新人さんですか?」

「あ、始めまして。望月といいます」

望月さん。おじさんとは初対面です。二人はお互いにお辞儀をして自己紹介をしました。そして二人はお話を続けました。望月さんのお話を聞いては、おじさんは質問を繰り返します。

「コウノトリの飼育をなさってたんですか。しかしまた、何故転職なさったんです?」

「昔から子供は大好きですけどね。実は、じかに触れ合える仕事を最初望んでいたんです。ですから弟の成人を待って、それを受け継いでもらってこの仕事を。親父の代からやってますから本来は私が継ぐべきなのでしょうけど」

「子供がお好きならば、この仕事にピッタリですね?」

「うーん、やってみなければ解りませんが……なんせ始めてですので、ご指南のほどよろしくお願いいたします」

望月さんはおじさんよりも若くて、ほっそりしていました。でも、子供好きな事は間違いありません。当然お髭もないから、おじさんみたいに付け髭をしています。髪も真っ黒だけど、あと2日もすればおじさんみたいに白くなるはずです。

「いえいえ、大丈夫ですよ。私もまだ3日目ですけど、要領はつかみましたから。とはいえ前準備に時間が掛かりますけど」

おじさんはそう言いながら笑いました。そのまま会話が続きます。

「私も橘さんのご指南を受けて準備しましたけど、簡単なようで難しいですね。特にトナカイがワガママで」

と望月さん。

「あははははっ。うちは当たりでしたよ。素直ですし」

「羨ましいですねェ。それからですね……この仕事についた途端、雪が積もることを知らずに、夜中に玄関を開けたんですね。途端に雪崩ですよ。……知らないって事は本当に恐ろしいですね」

望月さんも笑いながら言葉を続けました。それに橘さんが割り込みます。

「すいませんな。説明するのをすっかり忘れておりましたわ」

 

しばらくの間、おじさん達の談話が続きました。

「そう言えば、竹本サンも不祥事起こしましたな」

「ほんなこて、司法ン中核の閻魔て職も地に落ちたばいな……」

そんなこんなで、お話は目的地に到着するまで続きました。

 

一行は目的地に到着しました。ワゴン車から下りて、おじさんは目の前を見渡します。

目の前にはもう大地はありません。足元は雪で覆われています。

ここは切り立った崖の上。

そんな崖の下には、真っ白な雲と、時折隙間から見える街の灯りが広がっています。

下の世界の太陽はもう眠っています。

そうです。この崖から下の世界が、おじさん達の仕事の場所なんです。

「……ココから降りるんですか?」

望月さんの顔色が変わりました。当然この高さでは誰でも怖いはずです。

「大丈夫て! おる達がココから落ちる事ァなかけん」

訛った口調の平石さんがそう言いながら橘さんを励まします。そして、自分の胸をドンと叩いてこう言いました。

「よっしゃ。おるが見本ばみせちゃるけん。よう見ときなっせよ」

そう言いながら平石さんは自分のそりに乗りました。大きな袋を後ろに乗せて、トナカイに軽く鞭打ちます。ベルがシャンシャンシャンと音を立て始めました。トナカイが歩き始めたのです。

そのまま崖のふちを越えて……。

「おお~……」

望月さんが感嘆しました。なにも無い空の上に、平石さんはそりとトナカイと共に浮いていたのです。望月さんにはとても不思議に見えました。まるでガラスの上を走るみたいに、平石さん達は進んでいきます。

加えて、少しずつ下に下りていくではありませんか。望月さんは再び感嘆の声を上げました。

「先に行くけんな! お互い気合入れまっしゅい!」

平石さんの言葉が響き渡ります。

そしてそのまま雲の方までゆっくりと下りていき……ついには雲に埋もれて見えなくなりました。

さあ遅れを取ってはいけない、とばかりにおじさんもそりに乗り込みます。傷みの来た手すりを撫でながら、おじさんもまたトナカイに鞭打ちました。

「では、行ってきます」

おじさんはそう言いながら、平石さんと同じように崖から先に、トナカイ達に連れられてそりごと前に進みました。地面にいた時とは別の感覚がおじさんを包み込みます。

「わっ! ……ははっ、これはいい」

後から望月さんが続きました。初めての感覚に声をあげています。おじさんと望月さんは、隣り合わせになりながら雲の上を進んでいきました。

「気持ちいいでしょ結構。これがこの仕事の醍醐味ですよ」

「そうですね」

お互いに顔を見合わせながら、二人は笑いました。

「では、私はこちらですので。初仕事がんばってくださいね!」

おじさんは望月さんにそういう言葉を残して、進路を変えました。望月さんはおじさんとは正反対の方向に向かいます。お互い配る場所が違うのです。

早速おじさんは地図を広げます。今日の仕事場は、人口50万を越える都市が中心です。今日のおじさんのノルマは1万人を越えています。

「どうりで多いわけだ。……しかしいやだなー。込み合うしな、この進路だと」

一人で配るわけではありません。当然おじさんが暮らす町とは別の町からも、たくさんのおじさんがやってきます。下の世界に通じる雲の道は何処も一車線しかありません。50数人とはいえ、渋滞は免れないでしょう。

案の定、目の前に列が出来ています。真っ赤な制服に身を包んだ、おじさんの同僚達です。何処の組合も、ノルマを達成しようと必死になっています。

ここ数ヶ月で下界の人の数もかなり増えました。でも、今日配る場所は日に日に減ってきています。

しばらくゆっくりとした足取りで、おじさんは自分の順番が訪れるのを待ちました。

そして、ついにおじさんの番になりました。料金所の職員に組合のカードを見せて、そして先に進みます。

雲から抜けました。

風が吹いていました。

とても寒いはずなのに、おじさんはへっちゃらでした。

トナカイ達も逆に嬉しそうでした。

おじさんも嬉しそうでした。

 

雪が降っていました。

 

家の前の雪がキレイに解けていたからです。おじさんの配る場所は、自宅の雪が解けていたおかげで大雪になっていました。この職業をこなす人の家に積もった雪の解け具合が、担当する世界の雪の降り具合に大きく関わるのです。

角張った、真っ白な銀世界が足元に広がっています。大きな街そのものが真っ白に染まっているのです。そんな世界を、おじさんは見渡していました。

「さて、早速始めるか」

そう言いながら、おじさんは懐から書類を取りだし、目を通し始めました。

ベルの音が、街に響きわたっていました。

 

 

おじさんを待つわたしは、小学4年生。

毎年、いつだってプレゼントを持ってきてくれます。

星空のクリスマスには、星にお願いしています。ホワイトクリスマスでは、雪にお願いをします。パパにも欲しいものを言います。ママにも言います。

そして、そのお願いを、おじさんが持ってきてくれるんです。

 

「はい、プレゼントだよ」

おじさんが目の前に現れた時、もう時計は11時を回っていました。

「ありがとう」

おじさんに抱きついちゃいたいくらいに、嬉しかったです。

そしてそのまま箱を開けました。中から、大きな熊のぬいぐるみが出てきました。

「やったあ!」

わたしは嬉しくって、本当におじさんに飛びついちゃいました。

「うわっ……ははは、喜んでくれてありがとう」

おじさんは笑顔で……答えました。でも。

「ああー、お髭取れてるよ」

今、抱きついたからでしょうか。おじさんの髭が外れて、赤い服にくっ付いていました。

「あらっ!」

おじさんは笑いながらごまかしました。

「いやいや……この前お髭を間違えて剃っちゃって」

とてもやさしいお顔でした。なんだかそのお顔を見るだけで嬉しかったです。

だからわたしは、おじさんに相談することにしました。

「……ねえ、おじさん」

「ん? なんだい?」

わたしは、おじさんに言いました。

わたしは同じクラスに、好きな男の子がいました。でも、なんだか恥かしくってその事を言えません。……とても怖いです。言っちゃって、キライって言われるのも怖いし、みんなからはやされるのも怖いし。

でも、おじさんはにこやかにこう言いました。

「好きだって事をずっと胸に秘めときなさい。そして、キライと言われそうかなとか考えなくていい。絶対想いは伝わるからね。自分に自信が持てるときまで、ずうっと秘めときなさい」

……とてもやさしい目でした。

とてもあったかい言葉でした。

「……本当?」

「それに関しての専門家……じゃなくて、あの……おじさんはなんでも知っているんだ。信用しなさいっ。大丈夫だからね」

にこやかな笑顔で――何故か少しだけあせってたけど――おじさんは答えました。

わたしは何故か涙が出てきました。

とても嬉しかったです。

 

そして、おじさんは出て行きました。他の子供達のところへ向かったのでしょうか。

その日の夜は、なんだか眠れませんでした。

 

 

おじさんの一日のお仕事は、とても長いです。1万人の人達に会うために、時間の隙間も駆け抜けます。

12月24日の長い夜を、おじさんは1万回以上繰り返すのです。

たくさんの子供達に。

更に後1歩、踏み出そうとする恋人達に。

そして、夢を待つ全ての人達に。

おじさんは一人一人に会いに行くのです。

1万回の夜を数えて……。

おじさんはその仕事を楽しみました。たくさんの子供達の笑顔に出会えるのが、おじさんには最高の事でした。

 

6日後。おじさんは今日もトナカイを引き連れて、たくさんの荷物を背負い、下の世界に下りていきます。お髭ももうすっかり生えそろっていました。

最近、庭先の雪の減り方が思わしくありません。そんなとき、おじさんもトナカイも、少しだけ寂しい気持ちになります。

6日前に訪れた街が、今日のおじさんの仕事場です。

今日、下の世界は雨でした。雪が残ったせいで、こうなったのでしょうか。

自分が雨にぬれても、プレゼントだけは濡らしてはいけないのです。

一生懸命おじさんはがんばって、子供達にプレゼントを配りました。

 

6日前のあの女の子は、もう16歳のはず。そうおじさんは思いながら、再びその少女のもとを訪れました。2階のベランダに降り立ち、そうっと窓を覗きこみます。

この女の子には、直接手渡すものはありません。でも、少しだけおじさんは気がかりでした。あれから男の子と仲良くなったかな? そう思っての事でした。

温かそうな部屋。

そこからうっすらと見える、アイドルのポスター。

そして散らばる数枚の音楽CD。

学習机にひじをついて……女の子はとても悲しそうな瞳をしていました。時折、雨の振る空を見つめ、さらに悲しく落ち込むのです。

あの頃の、無邪気な女の子ではありませんでした。あれから、この世界では6年が流れました。もう、あの頃の面影には出会えないのです。

書類のリストには、彼女の名前はありません。まだ彼氏はいないのでしょうか。それともずうっと片思いでいるのでしょうか。……失恋したのでしょうか

おじさんは、少しだけ寂しい思いに駆られました。そして、彼女の心が、非常に気がかりでした。

おじさんは昔、人と人との心を繋ぐ「電波技師」でした。でも、今は違う仕事なので、それを見ることは出来ません。女の子が、何故悲しんでいるのか、気になって、不安でいっぱいになってしまいました。

でも……。

そんな部屋の片隅に、ぽつんと置かれた小さい影が見えました。

大きな熊のぬいぐるみ。少しくたびれているけど、6年間、少女を見守りつづけてきたのです。

「……」

おじさんは、少しだけほっとしました。

もうおじさんの姿は……あの少女の瞳には映らないでしょう。でも、女の子は幼い頃の思い出を秘めて、これからいろいろな思いを抱いて大人になるのでしょう。

おじさんはその場を後にしました。そして、たくさんの人達へ、願いを運びに行きました。1万回の夜を、再び数えながら……。

 

 

おじさん達は世界中の人気者。

毎日毎日、同じ事の繰り返し。

だけど大切なお仕事。

とても楽しいお仕事。

そして寂しいお仕事。

 

そんなおじさん達のお仕事は、サンタクロース。

たくさんの子供達の、恋人達の夢を背負い、クリスマス・イブの空を掛け回ります。

 

今日はわたしにとって、17回目のクリスマス・イブ。。

あの時の、小さな思い出を胸に。わたしが子供だったとき、おじさんが残した言葉。

「絶対想いは伝わるからね」

その言葉の意味を抱いて、わたしはここに居ます。

この前、わたしは好きな人に告白しました。そして、今では立派な恋人同士です。

おじさんは、わたしのもとにまた舞い降りるのでしょうか。

 

 

そんなふうに考えながら……。

わたしは今、これを書いています。

 

雪が降り始めました。あの人との約束の時間も近づいています。

真っ暗な空から降る雪。

それを窓越しに見ながら、わたしはペンを置きました。

そして、あの人の待つところへ。

小さな想いを抱いたままわたしは向かいました。

 

その日の夜、わたしはサンタクロースのそりの音を、聞いたような気がします。


(記 2000年12月19日)

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